オオクジャクサン
明日から3月。
大地の下で春の訪れを待っていた虫や草花がそろそろ大地に姿をあらわす頃です。
日本のファーブル、クマチカさんの愛称で親しまれた熊田千佳慕さん。
98歳でなくなるまで、生涯を通して昆虫の細密画を描き続けられた方で、
虫たちに向けられるまなざしの愛の深さには圧倒されます。
そのクマチカさんが書かれた「私は虫である」という本の中に
「オオクジャクサン」というタイトルの文章があります。
オオクジャクサンとは蛾の一種で、アーモンドの根元に産み付けられた卵から生まれ、
幼虫から成虫になるまでアーモンドの葉を食べて育つのですが、
人間からは害虫と呼ばれ駆除されてしまいます。
クマチカさんは、オオクジャクサンの目線になってその悲哀を表します。
「神さまの教え通りにアーモンドの葉を食べているだけなのに。。。
神様が決められたものだけを食べているのに。。。」
これを読んで、オオクジャクサンに申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
オオクジャクサンがアーモンドの葉を食べるのは、オオクジャクサン自身が選んだわけじゃなく、自然の法則としてそうなっているのに。しかも、オオクジャクサンはアーモンドの葉しか食べられないのに。食べたからといって殺されるなんてあまりに不条理だなあと。
食物連鎖の中にいる生き物はすべて、自然の法則によって決められたものを食べるように
生まれついています。それで地球の循環が保たれるようになっているのですね。
たとえば鳥は自分の好みの木の実を食べ、その木はその鳥に種子を運んでもらい、
鳥の行動範囲で木は増え広がっていきます。お互いに強力しあって命をつなぎ、どちらかの数が増えすぎないようにバランスを保っています。
地球に必要のない命などなく、
せんぶの命で地球という一つの「生命体」を構成しているのです。
それなのに、人間はずかずかとその完全なる循環の中に割り込み、乱し、
あげくの果てに食べるためでなくとも、自分勝手に他の生き物の命を奪います。
美しい海の命の環をこわし、貪欲に魚をとる人間。
豊かな森林を切り開いて牧場を作り、牛を飼う人間。
生き物に化学薬品を加え腐らない食品を大量に作り、大量に廃棄する人間。
この傍若無人な人間の行いを、自然の法則がいつまで許してくれるのだろう。。。と
心から心配になります。
ただ、私たちは可能性も持っています。
最近、「Bye Bye Plastick Bags」という、バリの学生たちが主催するプラスチックゴミ問題に取り組むプロジェクトの撮影をしたのですが、その主催者の姉妹のインタビューの中で感動的だった言葉があります。
We are the problem,We are also the solution.
(私たちは「問題」であると同時に「解決策」でもある)
問題を起こしたのが人間ならば、その人間こそが解決策になれるのです。
一人一人が、地球という星に自分を重ねあわせ、「地球」という身体がどのような状態だと心地いいのかイメージしたり、もう少し虫目線や鳥目線、魚目線や植物目線になって行動するだけで、人間だけではない、地球を構成する全ての命のバランスをとることがいつか必ずできると信じています。
「病気」が「健康」に対する「気づき」となるように、
今、地球上で起こっている「問題」が地球を「パラダイス」にする「きっかけ」と
なることを願います。
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ただ今、世界の海を漂流するプラスチックゴミという問題を通して、
世界中の人とつながり、希望や喜び、感動を分かち合う活動をする、ある青年の物語を
製作中です。リリースまでもうしばらくお待ちください。
文*KISANA LINES映像作家
写真*森のカメラマン