ウミガメ
新しい年になりました。
みなさんはどんなお正月を過ごされたでしょうか。
私は新年にたくさん本を読もうと、テーブルの上に本を積み上げて、読書に勤しんでいます。
今、読んでいるのは、友人に頂いた「ウミガメは100キロ沖で恋をする」です。
とても興味深いです。
卵からかえった稚ガメは海の藻に揺られてしばらく漂流し、成長したら餌のある海で暮らし、産卵時期が近づくと恋をするために沖へと向かいます。
ウミガメの種類は全部で7種類。
そのうち、一番大きなオサガメは、タイトルにもあるように、ビーチから100キロ離れた沖で恋に落ちて卵を身ごもり、自分が生まれた浜に戻って卵を生むそうです。
パプアニューギニアのオサガメの例では、産卵後、カリフォルニア沖までの1万2千キロもの旅をし、それを2~3年ごとに繰り返すのだそうですが、何故、そんなにも移動するのか詳しいことはわかっていないのだそうです。
ウミガメの研究を45年続けてきた作者 菅沼弘行さんの「保護」という言葉は大嫌いだ!という言葉からスタートする真摯で正直なウミガメ論。
実際に世界中で保護活動が盛んなところほどウミガメが減少しているのだそうです。
もちろん、ウミガメが減少した原因は人間の欲で、そのことに対する憤りも書かれていますが、私が菅沼さんの書かれている内容に惹かれるのは、ウミガメの生態は未だ謎に包まれているにもかかわらず、短絡的な判断をして保護活動をしてしまう人間に対して警笛を鳴らされているところです。
保護のためにウミガメの卵を移植するところが多いですが、ウミガメのオス・メスは卵の孵化中の温度で決まるらしく(一定の温度より高いとメス、低いとオス)、卵を移動させることでそのバランスを壊してしまうことになるそうです。
また、卵の孵化はすでに母ガメのお腹の中で始まっていて、一旦それを止めて砂に産みつけられた後、また孵化が再開されるそうですが、その際の卵の向きが非常に重要で、移植する時に角度が変わると孵化しないのだそうです。
他にも、ウミガメの保護活動という名のもとに行われている卵の移植や稚ガメの放流などが、保護どころかウミガメをどれだけ減らすことにつながっているか、その事例を菅沼さんは細かく検証されています。
そして、ウミガメが減少している最大の要因は、産卵するための砂浜が地球上から減少していることです。
話が少しそれますが、昨年、ニュージーランドの先住民が主人公の「木を見守る人」という短編映画の上映と、映像で伝えきれなかったエピソードをお話しするイベントを沖縄と奄美大島で合計3回、開催しました。
前回も書いたのですが、その映画の主人公のグレイスさんは代々、先住民マオリの人々が大地の神様として敬うカウリの木を見守る家族に生まれ、生涯を通してカウリの木々が茂る森の傍に住み、木に寄り添うように人生を送って来られました。
撮影当時、すでに80歳を超えておられたグレイスさんが言いました。
守るというのは、手を出さす、ただ見守ることだと。
森を保護しようとする現代の動きに対して、グレイスさんは辛口でした。木を枯らす虫を殺すために薬剤を使う保護活動は却って森の循環を破壊する。
歳をとった木が倒れることで若い木が育つ。森は自らそうやって循環してきた。
病気も一つのプロセス。人には森を保護することができないどころか、森に守ってもらってる立場なんだよ。
静かに話すグレイスさんの言葉が私の中にずっと響いています。
人間の一生は木々よりずっとずっと短いのです。
たかだか数十年、観察したぐらいでは自然の全体像は見えません。
だからこそ、先住民は代々、その役割を次世代に送り継いでいくのです。
人の一生分だけでは、何も判断ができないのを知っているのです。
これこそが先住民の叡智です。
実は、ここからが本題で、その上映会のために訪れた奄美大島で、心にとまる事柄があり、動画を制作し発信しています。(ご興味がある方は、YouTubeのsave katokuチャンネルを検索してみてください。現在、episdoe.3まで公開しています)
シダやマングローブなど亜熱帯植物が鬱蒼と茂り、天然記念物に指定される生き物もたくさん生息している自然豊かな奄美大島は、最近、ユネスコの世界自然遺産に指定されました。
世界遺産に指定されたのは陸上部ですが、クジラたちが子育てにくる海も本当に美しく、サンゴ礁にたくさんの魚たちが舞うように泳いでいます。
こんなに素晴らしい海に囲まれた奄美大島ですが、
自然な浜が残されている海岸は稀少で、集落のある海岸のほとんどがコンクリートの防波堤で囲われてしまっているのが実情です。
そうです。ウミガメが産卵できない浜になってしまっているのです。
自分の生まれた浜で産卵しようと遥か沖合いから泳いで帰ってきたのに、その砂浜がなくなってしまっていたら、ウミガメは一体どこで産卵すればいいのでしょう。
取材では、ビーチの砂がなくなってしまうメカニズムを大学の先生に詳しく話していただきました。
海岸の砂浜は常に移動しています。
川から流れた砂が海岸線にたまり、その砂が波にさらわれ沖へと移動し、また戻ってくる。これを繰り返しながら、川と海が重なる場所に自然な砂浜が出来上がります。
その生きている砂浜に固いコンクリートの堤防を立ててしまうと、川からの砂も堰き止められ、コンクリート前の砂は波に流されていき、どんどん浜が痩せていきます。
砂が大きな波を受け止めるクッション材になっていたのに、その砂がなくなったことにより、大波が堤防に直接 当たり、堤防前の砂はさらにえぐりとられていきます。
このように、砂の重要性を世界中が再認識している中、奄美大島の今や最後の自然が残された海岸とも言える嘉徳ビーチで、護岸工事が始まろうとしています。
住民の方々の中には、祖先が残してくれた素晴らしい景観を壊したくないと護岸工事に反対する人もいますが、多くの住民は賛成をしました。
集落を守るためにはコンクリート護岸しか方法がないと説明を受けたためです。
遥か昔からこの地を大きな波から守ってきてくれたのはこの砂浜なのに、そのことの理解が得られないまま取材を重ねるうちに、賛成派と砂浜を守ろうとしている人々が衝突する場面に出くわしました。
砂浜を守ろうとしている人々は、この地に住む他の生き物を含む自然の素晴らしさを訴えます。
それに対して、住民の一人が投げ捨てるように言った言葉が胸に刺さりました。
「私たちは自然と戦ってきたんです。台風の夜は大波が怖くて眠れません。
自然は敵なんです。そんな憎い自然を守りたいなんて全く思いません。」
その時、思い至りました。
確かに人間は歴史上、ずっと自然に争って生きてきたのかもしれないと。
丸腰では他の動物に負けてしまう人間は、武器を生み出し自らを守りながら、やがては自然や動物を支配し、人間独自の文明を築き上げました。
今では人間同士がその武器で戦っています。
まさに今の人間の文明は、自然に抗うことがベースとなっているのです。
人間は、いつの間に、自分たちも自然の一部なのだということを忘れてしまったのでしょう。
ニュージーランド先住民のグレイスさんが言うように、私たちは守られている側なのだということをいつから信じようとしなくなってしまったのでしょう。
ライオンやペンギンは、お腹が空いたからといって、自然に抗い自分たちの生き方を変えようとしていますか?
アフリカの草食動物は移動する時は必ず一列に歩きます。
自分たちの食べ物である草を潰してしまわないようにしているのです。
地球上全てのものがあるがままにいることで調和のとれた循環をする。
その完全調和の仕組みのことを自然と呼ぶのです。
そこには、もちろん人間も含まれています。自分たちこそが自然なのだから、自然を殺すことは、自分を殺すことになるのがどうしてわからないのでしょう。
この人類の道が行きつく場所は一体どこでしょう?
幸せな未来が想像できますか?
全てのものは瞬時であったり時間をかけるものなど差はあっても、お互いの微生物が入れ替わり絶えず他者と循環しています。
物理的にも科学的にも、すべてのいのちは一体なのです。
この精妙な「いのち」というシステムの中に我々は生きています。
「いのち」の輪からはみ出して生きていくことなど、自然の一部である私たちにはできないのです。
よく、もう、過去には戻れないという人がいます。
そうでしょうか?
地球が生まれてから45億年も経つ中で、我々 ホモ・サピエンスが生まれたのは
たった20万年前のことです。
産業革命以降、自然を壊し始めたのがおよそ200年前。
45億年の中のたった200年です。
今、私たちが分岐点まで戻って本来の道を歩み直さないと、そう遠くない未来に自然の自浄作用が起こってしまうような気がしてなりません。
新年早々、ネガティブな話になってしまいましたが、ポジティブに変えていける力を私たちは持っているのだということを信じています。
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さて、今年も各地で上映会を開催する予定です。
日程が決まりましたら、会員の皆さまにはメールでお知らせいたします。
そして、新年最初のニュースです。
三年がかりで制作したオーガニック花園のものがたり が完成しました。
タイトルは「オーガニックな花が咲かせる しあわせのお話」です。
本編は、舞台となった吉垣花園のイベントで今後、上映される予定ですが
ダイジェスト版をKISANA LINESの姉妹サイト「ひとつぶのものがたり 」の方に
アップいたしました。
代々続く花園の3代目が、ご家族との話し合いの末(ご両親、息子さん二人、娘さん一人、愛犬)、オーガニック農法に切り替えられ、紆余曲折がありながらも今は食卓に飾っても安心なお花を全国に届けられています。
*実は繊細なお花は傷みやすく、少しでも虫のあとがあれば花屋さんで売れないことから大量の農薬がかけられています。化学物質中毒で苦しむのは、美容師さんと花農家さんだとよく言われています。
取材中、吉垣家のご家族みなさんの笑顔が素晴らしくて、お花を撮るのを忘れて笑顔を撮るのに夢中になってしまったほどでした。
オーガニックなお花を育てることは、こんなにも素敵な笑顔を咲かせることなんだなと思いました。
笑顔を未来に繋いでいきたいという吉垣家の思いを映像に紡いだ作品。
ぜひ、ご覧いただければと思います。http://onepiecestory.com
これからも、未来への眼差しと日々の暮らしの中から生まれる愛おしいものがたり を、目に見えない想いとともに映像で紡いでいけたらと思います。
文:KISANA LINES 映像作家 桐子