木を見守る人
8月9日は世界先住民の国際day。
そんな日に、沖縄にて、KISANA LINES映像図書館の「上映会+旅のおはなし episdoe.1」を開催させていただきました。
会場は那覇にある大好きな「Book&Cafe hall ゆかるひ」さん。
オーナーのセンスが光るセレクトで集められた本に囲まれながら、地元オーガニック野菜をたっぷり使ったお食事やスイーツが味わえるカフェです。
実はここは本だけでなく、種もストックされていて、SEED libraryとして種を借りることができます。
借りた人は種を植え、育てて、次世代の種を採取して返すシステム。
沖縄の固定種を未来に届けたいというオーナーの想いが詰まった素敵な試みです。
このBook&cafeに隣接するhallも木の温かみがある心地のいいスペース。
大きなスクリーンに、木でできたデッキのようなステージがあって、とにかく、全てがナチュラルなホールです。
集まってくださったみなさまも、ゆかるひさんの活動に賛同される方たちはじめ、KISANA LINESの想いに共鳴してくださった方が多かったおかげで、
緊張でうまく話すことのできない私を最後まで優しく見守ってくださいました。
さて、今回、上映した作品のお話です。
Openingには、KISANA LINESの「声ものがたり」の「宇宙(そら)ごよみ episdoe.2 森のかみさまと海のかみさまが結ばれて」を上映しました。
これは、KISANA LINESの様々な作品に楽曲提供をしてくださっている新屋賀子さんが作詞作曲され、自らピアノを弾き歌っておられる「いのちの地球(ほし)」という曲に、KISANA LINESの森のカメラマンと海のカメラマンが撮った映像をコラージュして作った作品。
たくさんの災害に見舞われる地球のことを心配して、ともすれば不安になる私たちですが、地球はその真ん中にあたたかなハートがあって、そこは決して傷つくことはなく、生き生きした生命力に溢れていて、逆に私たちを五色の光で守ってくれているという、新屋さんが実際に見た夢を元に生まれた音楽。
その音楽に寄り添うように、森と海は別れていなくて、大きな地球という生命の巡りの中でひとつにつながっているのだというKISANA LINESのコンセプトを重ね合わせ、静謐な水をたたえた屋久島の森を縦糸に、海の生き物たちを横糸にタペストリーのように映像を紡ぎました。
ちなみに、新屋賀子さんは、この「いのちの地球(ほし)」という曲を1000人で合唱するというプロジェクトを進められています。1000人の美しい歌声が未来まで響きわたれば素敵ですね。
詳しくは「いのちの地球1000人合唱」で検索してください。
続いて、今回のイベントの主題である「木を見守る人」。
実は、この物語の主人公、ニュージーランド先住民マオリのグレイスさんは十数年前にテレビの旅番組の取材で撮影させて頂いたことがありました。
番組撮影時、グレイスさんのお話ひとつひとつの意味深さに、〝この言葉は次の世代にまで受け継いでいかなくてはいけない。いつか、もう一度、撮らせてもらおう〟と、心の中で誓いました。
そして、グレイスさんに再会する時がやってきました。
グレイスさんは、すでに、この時、80歳を超えておられていて、歩くのも辛そうでしたが、私の願いに応えるために、森の長老と呼ばれる木のところまで案内してくださいました。
グレイスさんは、森の木々を守る役目を代々担う家族に生まれ、
生まれた時からずっと森のそばに住み、木々と一緒に暮らして来ました。
全てのマオリの人には生まれた時から何かを守る役割があり、その役割のことを
「カイティアキタンガ」と言います。
私はグレイスさんに「グレイスさんのカイティアキタンガである木を守る」とは具体的に何をするのですか?と尋ねました。
すると、グレイスさんは言いました。
「ただ、そばにいて、見続けるのです」と。
手を出さず、ただ見続ける、それだけで守られるものがあることをグレイスさんは
時々、マオリ語を交えながら話してくださいました。
我々は、守るために過剰に保護したり、つい何か行動をしようとしてしまいますが、例えば、虫が増えて木が倒れても、それは大きな森の循環の中で起こっていること、
生も死も森の一部で、我々も森の一部として守られ生かされている立場なのだから、ただ大地の上に座り、見て感じていればいいとグレイスさんは言いました。
感じたことは大地を通して、森に伝わり、
必ず未来にまで伝わるからと。
人は長生きしても100年余りの命です。
樹齢数千年の木を代々見守ってきた家族だからこそ見えるものがあり、その言葉には真実があると思いました。
上映後、少しでも多くグレイスさんの言葉を伝えたくて、映像に入っていない言葉や私が知っている限りのマオリの文化について話しました。
皆さんに書いて頂いたアンケート用紙を読ませていただくと、私の拙い話でも、響いてくださった方が多かったことを知り、本当に嬉しく思いました。
集まってくださった方それぞれに感じてくださった想いが、タンポポの綿毛のように風に乗って旅を続け、いつか未来で花を咲かせればいいなと願います。
今日のブログは、ホールを貸してくださったゆかるひさん、イベントに集まってくださったみなさま、手伝ってくれた沖縄の仲間たちへのお礼の気持ちを込めて書きました。
マオリの人々は太平洋の島々を航海したアイランダーです。
沖縄の人々の伝統や習慣に近いものがあると感じます。
いつか、沖縄の物語も映像に紡がせてもらいたいなと思います。
episdoe.2、グレイスさんのお孫さんのお話も、完成したら、ぜひ、沖縄で上映させてください。
ありがとうございました。
文:KISANA LINES映像作家 桐子
写真:アニー梅本