旅する言葉
星野道夫さんが大好きで、旅をする時、よく星野さんの本を持ち歩きます。
一番長く私と一緒に旅をした本は、その名も「旅をする木」。
いつもバッグの中に入っている文庫本はページの端が折れ曲がり、
お風呂の中で読んだりするので湿気で表紙はふやけ、本はどんどんボロボロに
なっていきました。
(長い間、私の旅の道連れだった「旅をする木」の文庫本は、人から人へと
今も旅を続けていると思います。)
本は時間とともに古くなっていくのですが、
本に綴られている「言葉」は決して古くはなりませんでした。
いつ読んでも新しい発見があり、その時々に悩んでいることに対するヒントが
見つかりました。
本を開くと「僕はね、」と話す星野さんが今もそこにいて、
数十年前に星野さんが感じたことや思いが、
今を生きる私たちの心にみずみずしく響きわたります。
まるで「言葉」自身が生きて変化を続けているようです。
まどみちおさん(詩人)、熊田千佳簿さん(絵本画家)、
読んでいる途中で亡くなってしまった天野仁さん(物理学者)。
他にも私がその言葉に恋をした作家さんたちの多くは、もうこの世界に形としては
存在しません。
でも、本の中の「言葉」は、今もその言葉の向こう側にいる作家さんの感動や驚きや、生の喜びに息づいています。
「言葉」は、過去に生きていた人の「心」を乗せた船。
これから先も、時間や場所を超えて、どこまでも旅を続けていきます。
今、私たちが何気なく話している言葉も、
その言葉を聞いた人の心と身体に響き、未来へと旅をするのだと思うと、
もう少し丁寧に、大切に、
言葉を紡いでいきたいなと思います。
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森を見守るマオリのエルダーの物語のepisode.2。
おばあさまから小さい頃に聞いたお話を受け継ぎ、今に伝えている
お孫さんが出てきます。
目を輝かせながら、おばあさまの言葉を誇らしげに語る青年を見ていると
「言葉」は本当に神聖なものなのだと、改めて感じさせられました。
物語の完成まで、今しばらくお待ちください。
旅の途上にて
文:KISANA (映像作家)
写真:森のカメラマン・いのちの記録家(垣内未央)・映像図書館司書(Kayo)